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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7099号 判決

主文

被告は原告両名に対し、各金二三九〇万円及びこれに対する平成五年八月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告は原告坂本眞敏に対し、金二五〇万円及びこれに対する平成五年八月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告らは平成三年一一月二五日、不動産の売買等を目的とする株式会社である被告から、佐用スパークリンリゾートコンドミニアム(佐用フェージョン倶楽部会員権付)と称する別紙物件目録記載のいわゆるリゾートマンションの一区分(以下、「本件不動産」という。)を各二分の一の持分割合をもって、左記の約定のもとに代金四四〇〇万円で買い受け(以下、「本件売買契約」という。)、同日手付金四四〇万円を、同年一二月六日残代金三九六〇万円を支払った。

(1) 買主は、本件不動産の購入と同時に佐用フェージョン倶楽部の会員権を購入し、その入会金として登録料五〇万円、入会預かり金二〇〇万円を売主に支払う。

(2) 買主は、本件不動産を第三者へ譲渡その他の処分を行う場合には、本件会員権と共に一括して処分することを要し、これらを分離して処分することはできない。

(3) 売主が本件売買契約上の債務を履行しない場合、買主は相当の期間を定めて履行を催告し、それでもなお売主が履行しないときは、買主は本件売買契約を解除することができる。この場合、売主は買主に対し、売買代金を返還するとともに、手付金相当額を違約金及び損害賠償金として買主に支払う。

2  本件不動産は、被告が開発している佐用スパークリンリゾートと称する広大な敷地にゴルフ場、別荘地、テニスコート、屋外プール等と共に配置されたリゾートマンションの一区分であり、被告はこれらの施設に加えて屋内温水プール、ジャグジー、ラウンジ、娯楽コーナー、スポーツショップ等の諸施設が平成四年九月までに完成する予定であるとして、これら一体の諸施設の利用者の親睦を図る会員制の団体を佐用フェージョン倶楽部(以下、「倶楽部」という。)と称して、その諸施設の利用権を会員権(以下、「本件会員権」という。)として販売した。

3  原告坂本は右約定に基づき平成三年一二月六日、被告に対し登録料及び入会預かり金として二五〇万円を支払って、本件会員権を買い受けた(以下、「本件会員権契約」という。)。

4  原告らが本件不動産の売買代金、本件会員権の登録料、入会金預かり金を支払った際に、被告が原告らに交付した平成三年一二月六日付「佐用フェージョン倶楽部会員証等の送付ご案内」と題する書面にも「当倶楽部は本年七月仮オープンし、屋外プール、プールサイド、サウナ、テニスコート六面、レストラン、暖炉室などがご利用できます。平成四年本オープンに向けて屋内プール、ジャグジー、サウナ、ラウンジなどの建設を進めております。」との記載がある。

5  その後、被告は原告らに対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げ、本件不動産の代金を値引きして六〇万円を返還した。

6  原告らは被告に対し、早く屋内プールを建設するよう再三要求したが、その建設は未だに着手されていない。

7  原告らは被告に対し、平成五年七月一二日到達の書面で本件売買契約び本件会員権契約を解除する旨の意思表示をなした。

二  争点

1  本件売買契約及び本件会員権契約は不可分的に一体化しているか。

(原告らの主張)

(1) 本件売買契約書及び倶楽部の会則によれば、本件不動産の購入者は本件会員権の購入を義務づけられる一方、本件不動産を他に譲渡する際は同時に本件会員権をも一括して譲渡しなければならないとされ、本件不動産または本件会員権のみの処分は認められていない。

(2) 本件不動産はいわゆるリゾートマンションの一区分で、その本来の使用目的は、本件不動産に滞在しながらマンション内外のスポーツ、娯楽の諸施設を利用することにある。したがって、本件不動産のみを購入しても、これらの諸施設を利用できなければ、その購入目的を達せられない。

(3) なお、本件不動産の購入者は原告両名であるにもかかわらず、本件会員権の購入者は原告坂本のみであるが、これは被告の定めた倶楽部の会則によってマンションの区分数と会員権の個数が一致させられている結果であって、このことは却って本件不動産と本件会員権との密接不可分性を裏付ける事由である。

以上の事実から判断すれば、本件売買契約と本件会員権契約は不可分的に一体化している。

(被告の主張)

(1) 倶楽部の会員資格はマンションの区分所有者に限定されていない。本件不動産の購入者は原告両名であるが、本件会員権の購入者は原告坂本のみであり、原告岡本は倶楽部に入会していない。

(2) 本件売買契約の目的物は本件不動産であって、本件会員権ではない。

したがって、本件売買契約と本件会員権契約は相互に別個、独立したものである。

2  屋内プールの未完成を理由に本件会員権契約のみならず、本件売買契約をも解除することができるか。

(原告らの主張)

(1) 原告らが不動産を購入した目的は、屋内プールを利用することにあった。

(2) 屋内プールの建設は本件売買契約及び本件会員権契約の単なる付随的債務にとどまらず、本件売買契約の目的達成に不可欠な要素たる債務である。

したがって、屋内プールの未完成を理由に本件会員権契約のみならず、本件売買契約をも解除することができる。

(被告の主張)

(1) 本件売買契約、本件会員権契約のいずれにおいても、被告の債務不履行の事実はない。

(2) 仮に、屋内プールの未完成が本件会員権契約の債務不履行であるとしても、本件売買契約を解除することはできない。

第三  判断

一  争点1について

1  証拠(甲一ないし一二、一四ないし一六、乙一ないし五、九、一〇、証人中村信行、原告坂本、同岡本)を総合し、弁論の全趣旨を参酌すれば、以下の各事実、すなわち、〈1〉前記マンションは四棟から成り、被告が兵庫県佐用町及び南光町の山間部に所有、造成した佐用スパークリンリゾートと称する約五〇〇万平方メートルの地域にゴルフ場、別荘地、テニスコート、屋外プール等と共に配置されていること、〈2〉マンションの区分所有権を取得しようとする者は被告との間で、前記争いのない事実1(1)記載の約定のほか、倶楽部の会員となって入会金、登録料を被告に支払い、かつ本件不動産を転売した場合はその譲受人にも倶楽部の会則を遵守させる義務のあることが明記されている契約書に調印しなければならず、原告らもこれに従ったこと、〈3〉本件売買契約締結の際、原告らが被告から交付された本件不動産の重要事項説明書にも、マンション購入者は購入と同時に倶楽部の会員となり、転売したときは、その譲受人に倶楽部の会則を遵守させることを確約することが注意事項として明記されていること、〈4〉新聞紙上での販売広告では、マンションは「作用コンドミニアム(佐用フェージョン倶楽部会員権付」)と表示され、分譲価額には倶楽部の入会金が含まれている旨記載され、また売買契約書の表題にも「作用スパークリンリゾートコンドミニアム(佐用フェージョン倶楽部会員権付)と記載されていること、〈5〉倶楽部の会則には、マンション区分所有権は倶楽部会員権付であり、これらを分離して処分できず、倶楽部の会員がマンションを他に譲渡した場合、会員としての資格は自動的に消滅し、他方、譲渡その他の理由により、マンションを取得した者は所定の書類を被告に提出してその承認を得て新会員として登録を受けることができる、と定められていること、以上の事実が認められる。

2  右認定事実を総合すれば、マンション購入者がマンションに滞在しながらその周辺に存在する娯楽施設、スポーツ施設を利用することは、当然のこととして予定され、その前提として、マンション区分と倶楽部会員権が帰属を一にするものとされているから、本件売買契約と本件会員権契約は不可分的に一体化したものと考えるべきである。

もっとも、証拠(甲九、乙八、証人中村信行)によれば、倶楽部の会員には、マンション区分所有者以外の者も多く存在するが、このことは、会員資格がマンション区分所有者又は個別に被告から入会を認められた者の二要件に限定されていることによるのであって、個々のマンション区分に関しては区分所有権と会員資格は不可分一体として終始その帰属を同一にしていると解することを妨げるものではない。

また、本件不動産は原告らの各二分の一の持分による共有に係るところ、本件会員権は原告坂本が単独で有するものであるが、これは、被告が定めた倶楽部の会則において、マンション区分数と会員権数が一致させられ、かつ会員権の名義人は一名とされていることによるものであって(甲九、一五)、このことから、原告岡本が倶楽部の施設の利用を妨げられるわけではなく、却ってマンション区分と倶楽部の会員権との不可分一体性を裏付けるものである。

二  争点2について

1  右にみたように、前記マンションの購入者は被告の開発したリゾート地域内に所在する当該マンションに滞在して、各種のスポーツ用、娯楽用の付帯施設を利用することを当然の目的としてマンションを購入するものであるところ、証拠(甲二、八、原告坂本)によれば、被告は、新聞紙上に掲載した販売広告、購入者に頒布した案内書において、既に完備しているテニスコート、屋外プール、レストラン等以外に、屋内プール、ジャグジー、ラウンジの施設が平成四年九月までに完成予定であると明記して、これらの施設を利用できることをいわば売り物にして右マンションの販売を宣伝し、原告らに対しても同様の趣旨を明言して購入を勧誘したことが認められる。そして被告の、これら一体の付帯施設の利用を売り物にしたマンションの購入勧誘行為は、単なる販売のための口上としてその施設の未完成が不問に付される性質のものではなく、相当期間内にその完成が確約されたものとしてマンション購入者に理解されてしかるべきである。

原告らは屋内プールを利用することを目的として本件不動産を購入した旨主張しているところ、被告は右主張の真偽を問題にしているが、仮に、原告らの本件不動産の購入目的がほかにあったとしても、そのこと故に被告の屋内プールの完成義務が到底免除されるものではない。なぜなら、被告が建設を約束した各種施設のうち、いかなる施設を利用する目的でマンションが購入されたかに関しては、原告らのみならず、他の購入者らについても真の意図は奈辺にあるか当該購入者以外の者には明確でないのが常態であって、右真意を詮索する必要はないし、施設の完成は本来、被告の約諾した債務であって、その履行は一に被告の意思にかかっている関係上、未完成について正当の事由なく被告の責任を不問に付すことは到底容認されるべきでないからである。

したがって、原告らが本件不動産を購入した日から相当期間内に屋内プールを建設して、これを原告らに利用させる被告の債務は、本件会員権契約のみならず、本件売買契約にとっても必須の要素たる債務であるといわなければならない。

2  被告が原告らの再三の要求にかかわらず、屋内プールの建設に未だ着手していないことは双方に争いないところ、被告がその具体的な建設計画さえ原告らに確言しえないことは、本件和解手続を通じて当裁判所に顕著な事実である。そして、被告のその理由とするところは、要するに近時のいわゆるバブル経済の崩壊による経営環境の悪化にあるが、これが被告の免責事由となるものでないことは言うまでもない。

三  以上によれば、原告らによる本件売買契約及び本件会員権契約の解除はいずれも有効であり、被告に対し、本件売買契約の解除により売買代金四三四〇万円と手付金相当額四四〇万円の合計額の各二分の一に当たる二三九〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年八月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める各原告の請求、本件会員権契約の解除により二五〇万円及びこれに対する同日から完済まで同じく年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本件各請求はいずれも理由がある。

(別紙)

物件目録

(一棟の建物の表示)

所在    佐用郡南光町下徳久字本乢弐八五番地壱八六

建物の番号 佐用スパークリン リゾート コンドミニアム

(専有部分の建物の表示)

家屋番号  南光町下徳久弐八五番壱八六の壱参

建物の番号 C―弐〇壱

種類    居宅

構造    鉄筋コンクリート造壱階建

床面積   弐階部分 六参・弐四m2

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